「一生ものの技術を身につけたい」「手に職をつけたい」と考えたとき、溶接工は魅力的な選択肢の一つです。しかし同時に、ネットなどでは「辞めとけ」「きつい」といったネガティブな言葉も目に入り、不安に思うかもしれません。
たしかに、溶接の仕事には暑さや体力的な負担といったハードな側面もありますが、その技術は社会基盤を支えるために不可欠であり、熟練の技術者は資格や経験を武器に高収入を得ることも可能です。
この記事では、溶接工がきついと言われる理由から、それを上回るほどの大きな魅力、そして溶接工に向いている人の特徴まで、徹底的に解説します。
溶接工は辞めとけと言われる理由

「辞めとけ」と言われる理由として、溶接工につきもののハードな側面があり、それが誤解や不安を生むこともあります。代表的な例を紹介します。
過酷な労働環境
溶接工の主な作業場は工場や建設現場で、屋外または半屋外で行われることが多く、季節の影響を強く受けます。冬は冷気と風にさらされ、夏は高温と湿気に溶接の熱が加わるため、気温以上の厳しさを感じたり、熱中症のリスクが高まることもあります。
また、重い鉄材を運んだり、中腰や立ち姿勢のまま長時間作業するということも少なくありません。さらに、天候や納期によってスケジュールが変動し、繁忙期には残業や休日出勤が続くこともあります。
ただし、一口に溶接工といっても仕事内容はさまざまです。鉄骨や橋梁などの大型構造物を扱う人もいれば、プラント設備や配管、建築金物など、より精密な部分を手がける人もいます。屋外で体力勝負の現場もあれば、工場内で細部の仕上げを行う職場もあり、働く環境や求められる技術は現場ごとに異なります。
なお、夏の作業環境ですが、2025年6月からは、厚生労働省による法改正で熱中症対策の基準が明確化され、一定の暑さ指数を超える現場では報告体制の整備や応急措置の手順づくりが事業者に義務付けられました。現場でも水分補給や休憩時間の確保など、安全管理の取り組みが一層進んでいます。
健康へのリスク
溶接工が向き合う健康リスクには、次のようなものがあります。
アーク光による目や皮膚への影響
溶接中には「アーク光」と呼ばれる強い光が発生し、これを直視すると、角膜炎や視力低下の原因になることがあります。作業中は必ず「遮光面」と呼ばれる専用のマスクの着用が必須です。
ヒューム(煙)による呼吸器への影響
溶接時に金属を高温で溶かす際に発生する「ヒューム(粉じん・煙)」には、有害な物質が含まれていることがあります。これを長期間吸い込み続けると、「じん肺」や肺がんといった深刻な健康被害を引き起こすリスクがあります。そのため、防じんマスクの着用や、作業場所の十分な換気が不可欠です。
火傷や感電の危険性
アーク溶接の温度は、およそ5000〜6000℃に達するとされ、高温で溶けた金属や、飛び散る火花(スパッタ)が皮膚に触れれば、当然ながら重度の火傷を負うことになります。夏場にどれだけ暑くても、肌の露出は絶対に許されません。
その他、高電圧の機械を扱うため常に「感電」のリスクがあるほか、溶接後の金属を削るグラインダー作業や、歪みを直すハンマー作業などで発生する「大きな作業音」による難聴のリスクも挙げられます。
ただし、これらの健康リスクは、適切な保護具(遮光面、防じんマスク、耐熱手袋、安全靴など)を正しく着用し、会社の定める安全ルールと作業手順を徹底することで、そのほとんどを最小限に抑えることが可能です。むしろ、これらのリスクは「安全対策を怠った場合」に顕在化するものが大半です。
後悔しないためには、社員の安全教育や設備投資をしっかり行っている、信頼できる会社を選ぶことが何よりも重要になります。また、労働安全衛生法に基づき、換気設備の設置や有害物質の測定などが義務付けられており、環境改善に力を入れる企業も増えています。
一人前になるまでの道のりと収入
溶接は経験と技術の積み重ねにより着実にスキルアップできる仕事です。日々の練習や現場での試行錯誤を通して腕を磨いていくことができます。
地域や会社にもよりますが、未経験スタートの場合、最初の数年間は年収300万円前後に留まるケースも珍しくありません。しかし、スキルアップや資格取得、TIG溶接・半自動溶接などの高度な技術を習得することで、30代以降は年収600万円台も可能です。さらに熟練者や海外案件を手がける技術者では、年収800万円以上を得るケースもあります。
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昔ながらの職人気質な人間関係
溶接工の現場では、いわゆる「職人気質」の雰囲気が色濃く残っている職場も少なくありません。「見て覚えろ」という風土があったり、上下関係が厳しかったりと、人によっては息苦しく感じることもあるでしょう。ただし、最近は若手育成に力を入れる企業も増え、研修制度やマニュアル教育を整える動きも広がっています。昔ながらの体育会系の職場ばかりではなく、コミュニケーションを重視する現場も多くなっており、環境は変わりつつあります。
溶接工の魅力とやりがい

ここまで「辞めとけ」と言われる厳しい側面をお伝えしてきましたが、もちろん、それを補って余りある大きな魅力とやりがいがあるからこそ、多くの人が溶接工として誇りを持って働いています。ここでは、溶接工ならではの魅力を紹介します。
需要が高く、仕事のニーズが安定している
溶接技術は、ビルやマンション、橋といった建設分野だけでなく、自動車、船舶、鉄道車両、発電所のプラント、産業機械など、文字通り「あらゆる産業の根幹」を支えています。私たちの生活は、溶接技術なしには成り立ちません。
「AIやロボットに仕事が奪われるのでは?」と不安に思うかもしれませんが、機械化が進んでも、現場ごとの微調整や繊細な仕上げは人の手でなければ対応できない部分が多くあります。そのため、熟練した溶接工の需要は高く、景気に左右されにくいのが特徴です。
また、日本では技能者の高齢化が進み、若手不足が深刻化しています。確かな技術を持った溶接工は、常に社会から必要とされており、未経験からでも安定したキャリアを築ける仕事といえます。実際に厚生労働省の調査によると、製造業や建設業における溶接技能者の有効求人倍率は常に高水準で、2024年度時点で全国平均の約2倍に上ります。資格を取得すれば転職や独立にも有利で、安定したキャリア形成が可能です。
社会を支えるモノづくりの喜び
自分の仕事が、目に見える「形」として後世に残ることも、溶接工ならではの大きなやりがいです。自分の溶接が街のどこかで使われ、人々の生活を支えているという実感は、他の職業では得がたい誇りになります。完成した構造物を目にしたとき、「自分の手でこれをつくった」という達成感を味わえるのは、この仕事ならではの魅力です。
スキルが収入に直結する
「見習いのうちは給料が低いケースがある」と述べましたが、それは裏を返せば、「スキルと経験が収入に直結する」ということでもあります。溶接の世界は、学歴に関係なく腕一本でキャリアを築くことができます。たとえばTIG溶接や高圧配管、チタンなどの特殊金属を扱えるようになると、1件あたりの工賃が数倍になることも。努力がそのまま収入に反映される実力主義の世界なので、手に職をつけたい人には魅力的な環境です。
溶接工に向いている人の特徴

では、どのような人が溶接工として活躍できるのでしょうか。ここでは、求められる3つの重要な適性をご紹介します。
体力と集中力がある人
溶接は長時間の立ち作業や中腰作業が多く、暑さ・寒さの中でも集中して作業を続ける体力が必要です。また、溶接中は一瞬の気の緩みがミスや事故につながることもあります。体力と同時に、細部にまで気を配る集中力が欠かせません。
ものづくりが好きで探求心がある人
溶接は、温度や角度、金属の溶け合わせ方など、わずかな条件の違いで仕上がりが変わってくる繊細な作業です。「どうすればもっときれいに仕上がるか」「より強度を出すには」と考えながら工夫を重ねられる人は、技術の向上も早く、仕事を楽しめます。ものづくりが好きで、手を動かすことに喜びを感じる人にはぴったりの仕事です。
コミュニケーション能力がある人
溶接の仕事は一見、黙々と一人で作業する印象がありますが、実際はチームワークが欠かせません。現場監督や他職種の作業員と連携しながら、安全を確認し合い、作業を進める必要があります。報告・相談・連絡ができる人は、どんな現場でも信頼されます。
まとめ

今回は、「溶接工は辞めとけ」と言われる理由から、その魅力、向いている人の特徴までを解説しました。
改めて整理すると、溶接工の仕事には「過酷な環境」や「健康リスク」といった、きつい側面が確かに存在します。しかし、それらのリスクの多くは適切な安全管理によって防ぐことが可能です。同時に、そうした厳しさを上回るほどの「高い需要と安定性」「ものづくりの達成感」そして「スキルが収入に直結する」といった大きな魅力がある、ということがお分かりいただけたかと思います。
溶接工は、決して「誰にでも楽にできる仕事」ではありません。しかし、体力と集中力があり、ものづくりへの探求心を持って真摯に取り組める人にとっては、学歴に関係なく、自分の腕一本で社会に貢献し、誇りと安定した収入を得られる、まさに「天職」となり得る仕事です。
もしあなたが未経験からこの世界に飛び込むなら、何よりも「安全管理」と「教育体制」がしっかりした会社を選ぶことが、後悔しないキャリアを歩むための最も重要な第一歩となります。
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記事の最後でお伝えした通り、未経験から溶接工を目指すなら「安全管理」と「教育体制」がしっかりした会社を選ぶことが最も重要です。
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