建築士の資格を取得し、建設業で働いていると会社から「設備設計一級建築士」の資格取得を促されるケースもあります。しかし、難易度の把握ができていない、どのような資格なのか詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では設備設計一級建築士について資格取得の流れやメリットを紹介します。これから資格取得を検討している方、あるいはさらに上位のキャリアを目指したい方はぜひ参考にしてください。
設備設計一級建築士はどんな資格?

設備設計一級建築士は、「一級建築士」の上位の資格です。
設備設計においては国内トップクラスの資格であり、2008年に創設された資格であるため、歴史に関しては比較的浅いといえます。
しかし、資格を保有できれば、設備設計に関する実務経験や知識を持っていることの証明につながります。
実際、現場では持っている人間をみかけたことはありません。持っているとすれば大手企業の本社勤務の人がほとんどです。
企業にもよりますが、設計の分野で大手企業の本社勤務で働きたいなら、取得しておいて損はないでしょう。
設備設計一級建築士の仕事内容
設備設計一級建築士は、大規模建築物の電気設備・機械設備の設計において、技術指導者としての役割を担えます。
また、設備設計者としては、電気設備・機械設備の基本設計や実施設計を実施し、施工現場では主に設計監理が仕事です。
過去には、建築士の求めに対して建築設備士などがインフラ設計を担当していたものの、資格がなくても設備設計に携わることが可能でした。
しかし、現在は大規模な建築物などでは、設備設計一級建築士の作業が必要です。
新設された背景
新設された背景には、2005年に建築業界で「耐震偽装問題」が発生したことが要因として挙げられます。昔の建物設計に関しては、意匠設計事務所が下請けに対し、構造設計や設備設計の丸投げを行うケースが多くありました。
そのため、下請けの設計者が意匠設計事務所からの圧力を受け、偽装を行うといった行為につながっていたといえます。
耐震偽装が行われた場合には、本来耐えることが可能な地震に耐えられず、建物の倒壊や命を失うリスクが高まります。
そういった問題を受け「構造設計と設備設計については、専門性の高い設計者が行うべき」という考えから設備設計一級建築士が新設されました。
実際に、耐震偽装に関しては今でも話題になるケースがあります。
「資格の信頼性を問われるものでもあった」
という意見を多くの現場で聞きました。設備設計一級建築士に関しては、誰でも取れる資格ではないため、業界の中でも信頼性は高いと感じています。
建築設備士や一級建築士とは違う~異なる業務や範囲

設備設計一級建築士と混同されがちな資格として、建築設備士や一級建築士が挙げられます。設備設計一級建築士と建築設備士、一級建築士でそれぞれ担当可能な業務や範囲の違いを次の表にまとめました。

※階数が3以上かつ床面積の合計が5,000㎡を超える建築物の設備設計については、設備設計一級建築士による設備設計、または設備関係規定への適合性確認が義務付けられています。
実際に、現場では混同されることはなく、区分を明確に把握しているケースが多かったです。大手企業の施工管理者も
「そもそも資格者がいないし、3つ全てを持たなくても給与はそれなりにはなる」
「大規模建築物ではフローが決まっている点も含めて、もし取得できれば現場に来るケースはほぼない。本社の設計部門に所属するケースが多いようだ」
という認識を持っていました。
設備設計一級建築士の難易度は高い?

設備設計一級建築士の資格取得の難易度はかなり高いといえます。講習の修了者数は令和8年時点で累計約7,100名です。
近年は全国で年間100〜200人台の修了者数となっているため、希少性の高い資格だと判断できます。 講習の修了率は年度によって波があり、50%程度になる年もあります。一級建築士資格を取得していても、勉強しなければ試験に合格することはないでしょう。
設備設計一級建築士の需要は高い状況にあります。人材不足が深刻化し、市場価値が高まっているためです。
特に建築士事務所やゼネコン、官公庁など幅広い場所で活躍できるでしょう。
また、勤務場所に関しては、現場よりも設計専門となるため、都市部で働きやすい傾向があるといえます。各企業でニーズがあるものの、取得難易度の高さから保有者が少なく、仮に転職者がいれば取り合いになるケースも多いという話も聞いています。
参考:(公財)建築技術教育普及センター - 設備設計一級建築士講習 修了者数(累計)
設備設計一級建築士を取得するメリット

ここでは、設備設計一級建築士を取得するメリットを解説していきます。年収や転職などさまざまな面でプラスに働くため、取得を検討してみましょう。
年収アップにつながる
設備設計一級建築士の年収は、700〜1,000万円程度といわれています。年収に関する具体的なデータなどはないものの、資格手当を一級建築士より高額に設定している企業が多くあるため、年収アップにつながります。
また、 希少性が高い資格であるため、設計事務所や大手ゼネコンで勤務している場合であれば、年収1,000万円を超えるケースも多いでしょう。
実際に、建設業界の中では設備設計一級建築士の年収は高いといえます。中小企業では、建築士や各種施工管理技士の年収が500から700万円程度となっているケースが多く、
「年収も良いが、有名な建築物に関わりたいなど、やりがいを求めるなら大企業のほうがいい」
という言葉もありました。
転職で有利になる
設備設計一級建築士は転職で有利な資格です。1級建築士を含む「建築・土木・測量技術者」の有効求人倍率は、2023年の12月時点で6倍超えと高い数値となっています。
また、一定規模を超える大規模建築物には関与義務があります。特にゼネコンや設備設計事務所などで活躍しやすいといえるでしょう。
ゼネコンの場合、主に担当するのはビルや橋といった規模の大きい建造物です。さまざまな建築物を扱うことに加え、異なるジャンルの仕事に関わる人が会社に在籍しています。
そのため、コミュニケーション次第でゼネコンの持つ技術や専門知識などを取り入れやすい点はメリットです。
設計事務所では、基本設計や構造段階から関われるため、自分の設計提案を実現させたい場合に適しています。設備設計一級建築士としての専門知識やこれまで培ってきた能力を発揮させやすい場所といえるでしょう。
設備設計一級建築士の資格取得の流れは?

ここでは、設備設計一級建築士を取得する際の流れについてみていきます。受験資格や講習会、試験などをチェックし、参考にしてみましょう。
1.受講資格を得る
受講資格を得るためには、一級建築士を取得したうえで、5年以上設備設計の業務に従事しなければなりません。業務経験として認められる業務は、次のとおりです。
・設備設計の業務
・建築設備に関する工事監理の業務
・消防同意に関する業務
・建築設備士として従事する建設設備に関する業務(一級建築士になる以前に行っていた建築設備に関する業務も含まれる)
・建築確認の建築設備に関する審査およびその補助業務
建築設備士として従事する建設設備に関する業務に関して、所定の業務経験があれば、講義と修了考査で、「建築設備に関する科目」が免除されます。
また、建築設備に関する工事監理の補助業務と設備設計の補助業務については、平成25年9月まで携わっていたものは業務経験として認められます。
しかし、平成25年10月以降に携わったものは業務経験として認められないため注意しましょう。
実際に、一級建築士を取得した人であっても
「受講資格があったとしても、更に勉強する時間が取れないし、残業の多さを考えると受かるとは思えない」
という意見も聞きました。
また、分野が異なったとしても現場単位で忙しさが異なり、終盤となった場合には、残業が常に発生する状況の現場を目にしてきました。
「受験資格を持っていても最終的に受かる可能性が低いから受けない」
という選択肢を取るケースが多いのも、そのような実情が背景にあることが考えられます。
2.講習を受ける
講習の申し込みについては、申込区分から該当する区分に申し込みましょう。申込区分は次の表のとおりです。

※参考:(公財)建築技術教育普及センター - 設備設計一級建築士講習 受講要領
の内容を基に作成
講習会は3日間の講義で、講義内容は次のとおりです。
・建築設備関係法令
・建築設備設計総論
・法適合確認
・給排水衛生設備の設計技術
・空調
・換気設備の設計技術
・電気設備の設計技術
・設計事例
・工事監理
・輸送設備の設計技術
会場での受講が基本であるものの、オンデマンド配信での講義動画の視聴を選択できます。次のような場合は修了考査を受けられないため、注意しましょう。
・受講しなければならない講義を一部でも欠席する
・受講が必須となっている講義動画の視聴を完了しない
3.修了考査を受験する
講習受講後は、修了考査を受験します。過去3年間の設備設計一級建築士講習データは次のとおりです。

参考:(公財)建築技術教育普及センター - 設備設計一級建築士講習 実受講者数、修了者数、修了率
修了率の数字だけを見ると、合格率は低く見えないでしょう。しかし、一級建築士を取得している方が5年以上設備設計の実務を行い、講習を受講したうえでの修了率であることを考えると、取得が難しい資格といえます。
修了考査は、講習で学習した範囲から課題が出され、記述式および製図で実施されます。修了考査の科目は、毎年共通して法適合確認と設計製図です。
結果は、合否に関係なく通知される点も知っておきましょう。
4.交付申請を行う
講習を修了し、設備設計一級建築士証の交付を受けることで、設備設計一級建築士の資格を得られます。
交付申請の期間は、修了考査の実施日以後1年以内です。それ以降は交付が受けられないため、忘れずに交付手続きを行いましょう。
設備設計一級建築士を取得するための勉強方法とは?

修了考査に関する市販の対策本や過去問集などはありません。
学習方法としては、講習で使用したテキストを読み込む、過去問を入手して傾向の把握と対策を行うといった方法があります。講習会のテキストに関しては、講習会で解説された箇所を重点的に学習しましょう。
過去問は主催である建築技術教育普及センターに申し込めば、前年度分の修了考査問題集を取り寄せられるものの、解答や解説はありません。テキストを見ながら自分で解答を作成しつつ、問題を繰り返し解きましょう。
合格率を高めたい場合は、講座スクールの利用が効率的です。業務との調整が必要であるものの、自分では難しいスケジュール管理が明確にでき、過去問の分析などは専門家の視点から解説があります。 私も別資格でスクールに通ったことがありますが、勉強のペースを自分で決めにくい場合には効果的な方法だといえます。
まとめ
設備設計一級建築士は一級建築士の上位資格です。建設業の中でも、設計においてトップクラスの資格であるため、取得の難易度は高いといえるでしょう。
需要が高いことに加え、大規模な建築物などにおいては必要となる役割があります。そのため、取得できれば、年収アップにつながったり、転職に有利になったりするといったメリットを得ることが可能です。
ただし、設備設計一級建築士の取得には、講習の受講資格を得なければなりません。資格取得を検討する場合は、過去問などを使用して学習を進め、講習で使用されたテキストを読み込む、資格スクールに通うなど修了考査に備えましょう。
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執筆:鈴原千景
施工管理と設備・土木設計を5年経験。現在は、建設業界も含めた様々な分野の記事執筆を行うライターとして活動